
補聴器がアナログからデジタルへ技術や性能が進化してから30年以上が経ちます。
メーカーのほとんどはデジタル補聴器の開発が進んでいますが、現在でも一部のメーカーではアナログ方式の補聴器も販売されています。
デジタル補聴器が主流になる中でデジタル方式とはどんな機能があるのか、アナログ方式とはどういった違いがあるのか具体的なことまで知らない人も多いでしょう。
この記事ではデジタル方式の補聴器とはどういった特徴があるのか、アナログ方式とはどんな違いがあるのか説明します。
デジタル補聴器のメリット・デメリットを筆者の体験談とともに紹介しますので、デジタル方式でできる機能を知るご参考になれば幸いです。
デジタル方式の補聴器とは
デジタル方式の補聴器は、高度なコンピューターが搭載された補聴器です。
デジタル方式補聴器の主な特徴
デジタル方式の補聴器は、外部からの音声をデジタル信号で処理することで細かな調整ができるのが特徴です。
具体的には、マイクが拾った音をDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)で処理することで雑音や騒音を抑制したり会話音を強調したりするなど、個々の聴力に合わせてきめ細かな音の調整を可能にします。
また外部機器と連携する機能などを搭載することで、より騒がしい場所でも会話がしやすく自然でクリアな音を聞くことが可能です。
DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)とは
DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)は、音声や画像などのデジタル信号の処理に特化したプロセッサ(集積回路)です。
補聴器におけるDSPとは音をデジタル信号に変換し、その信号を高度に処理するコンピュータチップのことです。
補聴器の音を伝える基本的な仕組みについては、下記記事をご参考ください。

アナログ方式からデジタル方式への進化
補聴器はもともとアナログ方式でしたが、1980年代にデジタル方式を取り入れた耳かけ型・耳あな型補聴器が導入されました。
当初は電気信号がアナログで、制御部分をデジタルで行っている状態でした。
筆者もアナログ方式からデジタル方式へ移行するタイミングの補聴器を装用していた時期がありますが、初期のデジタル方式はトリマーというドライバーでネジを回して音質の調整を行っていました。
1990年代に入るとコンピューターで処理や調整ができるようになり、フルデジタル方式の補聴器が完成しています。
補聴器の歴史については、下記記事もご参考ください。

アナログ方式とデジタル方式の主な違い
アナログ方式からデジタル方式の補聴器へ移り変わる現代ですが、どんな違いがあるのでしょうか。
アナログ方式の補聴器は、外部から聞こえるすべての音を大きくするのが特徴です。
周囲の雑音や騒音まで拾ってしまうため、補聴器本体の音量を大きくするほど雑音も大きく聞こえます。
一方デジタル方式の補聴器は、周囲の雑音や騒音を抑制して相手の話し声など必要な音声だけを強調して聞き取りやすくすることが可能です。
またアナログ方式の補聴器では多く発生したハウリング(ピーピー音)も抑えることができます。
次項からは、デジタル補聴器の機能としてメリット・デメリットを筆者の体験とともに紹介していきます。
デジタル補聴器のメリット
デジタル補聴器は、機種によって聞き取りやすさが向上したり自動で音量や音質の調整ができたりするなど以下のようなメリットがあります。
- 雑音を抑制し必要な音を強調
- 自動で音量や音質を調整
- 不快な音の抑制
- 利便性や拡張性の向上
- 他にもあるメリット・機能
- 筆者が体験したデジタル補聴器のメリット
雑音を抑制し必要な音を強調
デジタル補聴器は、高度なデジタル信号の処理によって背景にある雑音や騒音を抑制し、聞きたい会話などの音を強調する機能があります。
機種によっては、言葉の理解に重要な子音を強調する機能がついているタイプもあるようです。
また補聴器から発生するハウリング(ピーピー音)を瞬時に抑える機能が搭載されています。
自動で音量や音質を調整
デジタル補聴器は大きな音に対して不快にならないように、小さな音にははっきりと聞こえるように音量を自動調整してくれます。
面倒なボリューム調整が不要になり手間が省けるほか、機種によっては個々の聴力や好みに合わせて特定の音を増幅するなど細かなカスタマイズが実施可能です。
また静かな場所や騒がしい環境など、シーンに合わせて最適な音質に自動で調整・切り替えができます。
さらに音のひずみが少なく、明瞭でクリアな音を実現するために入ってくる音を分析し低音から高音まで周波数ごとに細かく調整することが可能です。
利便性や拡張性の向上
デジタル補聴器は、スマートフォンと連携させることで電話や音楽などの音声を補聴器に直接届けて聞くことが可能です。
また補聴器の本体に触れることなく、付属のリモコンやスマートフォンから音量調節やプログラムの切り替えなど操作が簡単に行えます。
他にもあるメリット・機能
デジタル補聴器の最新モデルではAIを活用した音声認識機能も搭載され、より自然で快適な聞こえを提供しています。
他にも360度の聞こえを届けたり会話をロックオンして複数の相手を追いかけ言葉の隅々までより正確に再現したりするなど、メーカーによって特色のある音を展開することも増えています。
筆者が体験したデジタル補聴器のメリット
デジタル補聴器は高度なコンピューターを搭載していることにより、雑音や騒音の抑制機能によって会話を明瞭化させたり聴力に合わせたきめ細かな音質の調整ができたりするなど多岐にわたります。
他にも自動で音量を調整したりスマートフォンとの連携による操作性が向上しているため、利用する人が必要とする機能を備えたデジタル補聴器を選ぶことが可能です。
筆者はデジタル補聴器が普及してから数年以上が経っても、アナログ補聴器の安定した音質から離れることができませんでした。
しかしデジタル補聴器を初めて装用した時、音楽が流れる騒がしい環境でも相手の話し声だけを拾ったかのように必要な音声だけが聞き取れることに感動したことも事実です。
デジタル補聴器のデメリット
デジタル補聴器には機能が多いことによる設定の慣れが必要だったり音質の好みが分かれたりするなど、以下のようなデメリットがあります。
- 設定や調整の慣れが必要
- 充電やメンテナンスが必要
- 音質の好みに個人差がある
- 本体価格が高価
- 他にもあるデメリット・注意点
- 筆者が体験したデジタル補聴器のデメリット
設定や調整の慣れが必要
デジタル補聴器は多機能なため、自分の聞こえに合った設定や調整に慣れるまでに時間がかかります。
詳しくは後述しますが、デジタル補聴器はコンピューターを搭載していることからスマートフォンや外部機器との高度な連携機能を備えています。
しかしシンプルな機能だけでいい人や操作の難しい高齢者など人によっては使いこなせない場合があり、その機能の恩恵を受けられないことがあります。
充電やメンテナンスが必要
デジタル補聴器には、充電式の補聴器もあるため毎日の充電が必要です。
電池式の補聴器はアナログ補聴器と同じく電池交換が必要ですが、デジタル補聴器の性能によっては電池の消費が早い場合があり電池交換の頻度が高くなります。
またデジタル補聴器はコンピューター搭載のため、定期的なメンテナンスを行うことがトラブルなく長持ちさせるポイントです。
音質の好みに個人差がある
デジタル補聴器には前述の通り雑音や騒音を抑制したり会話音だけを増幅させたりできる一方で、個々によって音質の好みが分かれるため人によっては音を冷たく感じることがあります。
またつけ始めは補聴器からの音に慣れるまで時間がかかり、最初は違和感や不快感を覚えることが多いです。
本体価格が高価
デジタル補聴器はコンピューター搭載の高機能な性能が必要なため、アナログ補聴器に比べると本体価格が高価です。
とくに充電式の補聴器を選択した場合は、充電機能を備える必要があるため電池式の補聴器よりも割高になります。
また両耳装用の人は、片耳装用より購入費用の負担が大きいです。
補聴器本体の価格相場や電池式・充電式の補聴器については、別記事で紹介します。
他にもあるデメリット・注意点
デジタル補聴器は精密機器であるため、水に弱く雨天時や入浴時などには取り外す必要があります。
アナログ補聴器に比べると防水・撥水機能のある機種もありますが、基本的に水や湿気には弱いと考えたほうがいいです。
また寿命でいうとアナログ補聴器と同じく、医療機器として5年の耐用年数が定められています。
利用者の多くは約4年程度で買い替えており、とくに両耳の補聴器を装用している人には購入費用の負担が大きいでしょう。
なお一定の条件を満たせば、自治体による補装具購入費の助成制度や医療費控除の対象として申告が可能です。
補装具購入費の助成制度や医療費控除については、別記事で紹介します。
筆者が体験したデジタル補聴器のデメリット
筆者は幼少時代から補聴器を装用しているため、アナログ方式からデジタル方式へ移行した時は聞こえの変化に戸惑いました。
デジタル補聴器が主流になっても、アナログ補聴器の重さのあるしっかりした音が聞き取りやすかったのも本音です。
しかし重度難聴に対応したアナログ方式の補聴器が減少したのに伴い、デジタル方式の補聴器へ切り替えました。
アナログ方式の補聴器から聞こえる音は安定しているため、デジタル方式の補聴器から聞こえる音の軽さに慣れるまでは時間がかかりました。
それでもデジタル方式の補聴器はアナログ方式に比べると、幅広い音域で個々の聴力に合った調整が可能です。
他にもあるデジタル補聴器の機能
デジタル補聴器は、基本的に音声をデジタル信号に変換しコンピューターで細かく処理しながら耳内へ伝えます。
音に関する基本的な機能
前述のメリットで挙げた通り、デジタル補聴器の音に関する機能をまとめると以下の通りです。
| 雑音抑制機能 | 人の声ではない雑音や騒音を抑え会話を聞き取りやすくする |
| 会話音声の強調 | 話し声や言葉の要素を強調し聞き取りやすくサポート |
| 突発音抑制機能 | ドアの閉まる音や物を置く音など突然の大きな撃音を自動で抑える |
| 細かな音質調整 | 使う人の聴力に合わせて特定の周波数だけを増幅するなど、細かく音質を調整する |
| ハウリング抑制機能 | 補聴器から出るハウリング(ピーピー音)を自動的に抑え、快適な聞こえを提供 |
他にも会話や音楽、静かな場所など周囲の環境や状況に応じて最適な設定に自動で切り替える機能、AI搭載の補聴器には人の声と環境音を区別してより自然な聞こえと快適な聴き心地を実現します。
近年では、リモコンによる遠隔操作ができたりスマートフォンや外部機器との連携ができたりするなど多機能になっています。
音に関する機能以外にデジタル補聴器でできることは、主に以下の3つです。
- リモコンや外部デバイスとの連携
- 専用アプリによる操作
- Bluetoothによる効率化
リモコンや外部デバイスとの連携
補聴器本体以外のリモコンやスマートウォッチなどの外部端末から、音量やプログラムを操作できる機能があります。
専用アプリによる操作
デジタル補聴器には、専用アプリによる操作で利便性がアップします。
具体的にはiPhoneやAndroidのスマートフォン端末に対応したアプリを使って、補聴器の音量・音質調節ができたり電池残量を確認できたりします。
また、聞きたい方向の音声を優先的に聞いたり補聴器を探したりすることも可能です。
Bluetoothによる効率化
Bluetoothを搭載したデジタル補聴器は、スマートフォンと連携させることで以下のように効率化が高まります。
- 直接ストリーミング
- コネクティビティ
- ハンズフリー通話
直接ストリーミング
メーカーによって対応の可否が分かれますが、補聴器をワイヤレスイヤホンのようにスマートフォンの音楽や動画を聞くことができリモコンとしても機能します。
補聴器のマイクから入る周囲の音をカットして、通話相手の声だけを聞くことも可能です。
コネクティビティ
Bluetoothが搭載された補聴器は、さまざまな機器と接続して生活を便利にできます。
例えばテレビのステレオ音声を好みの音量で聞いたり、固定電話と繋げることで相手の声を補聴器に届けたりできます。
ただしボリュームの調整やプログラムの変更などを操作するリモートコントロール、電話やスマートフォンからの声を直接補聴器で聞くことができるコネクトクリップが別途必要です。
ハンズフリー通話
Bluetoothを搭載することで、ハンズフリー通話が可能になります。
例えばヘッドセットとしての使用でWeb会議などのコミュニケーションをより円滑にできたり、両手が自由になることで通話しながら仕事や料理など他の作業が両立できたりするなどです。
外出先でも家族や友人とのビデオや電話をハンズフリーで会話が楽しめるのです。
デジタル補聴器の機能まとめ
以前まで主流だったアナログ補聴器は、単純な作りだったために外部から入ってきた音をそのまま増幅させることしかできませんでした。
相手との会話に集中したくても周囲で聞こえる物音や音楽のBGMまで拾って増幅されてしまうため、言葉が聞き取れず会話に集中できないという問題が多くありました。
一方でデジタル補聴器は、外部から取り込んだ音を分析・音声処理できる機能を備えています。
そのため雑音や騒音といった必要のない音は抑制し、相手との会話で音声成分を増幅させることが可能です。
デジタルへの進歩により、騒がしい環境下でも目の前にいる人の音声だけをクリアに聞き取れるようになりました。
とはいえ、雑音や騒音は時に必要なこともあります。
例えば街中を歩く時に後ろから車がやってくる音、とくに通行を妨げてはいけない救急車のサイレンは必要な音です。
公共・民間施設や建物の中にいても警報アラームの音は欠かせないでしょう。
デジタル補聴器によってあらゆる環境下でも声や言葉を聞き取りやすく、必要な音は取り入れながら歪みの少ない自然な聞こえを実現させていきましょう。
以下の記事では、補聴器の種類やそれぞれの特徴について紹介しています。
ポケット型・耳かけ型・耳あな型補聴器のメリット・デメリットを筆者の体験談付きで解説していますので併せてお読みください。

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