
難聴の人や聴覚に障害がある人が会話するのに欠かせない手話や筆談。
役所や図書館といった公共施設や商業施設のカウンターの多くは、聴覚障害者マークを設置してサポートしてくれます。
しかし他にもカフェレストランやコンビニなど、企業の取り組みによって聴覚障害をもつ人をサポートしているのをご存知でしょうか。
例えばソニー銀行では、Webブラウザでのテレビ電話から通訳者を介し手話・筆談による問い合わせ対応を2025年1月より開始しました。
スターバックスでは聴覚障害のある店員が対応することがあり、指差しで注文する専用のメニューシートが差し出されます。
この記事では、難聴や聴覚障害がある人へのサポートに力を入れている主な企業や店の一例を紹介します。
企業の難聴・聴覚障害者へのサポート体制

多くの企業では難聴や聴覚障害のある人をサポートするために、さまざまな対策や工夫を行っています。
企業が聴覚障害者をサポートする理由
企業がサービスを提供する上で難聴の人や聴覚障害者をサポートする理由は、法的義務の遵守や社会的責任(CSR)の遂行、企業価値・イメージの向上、多様性の推進に集約されます。
法令による義務化(合理的配慮の提供)
2024年4月1日から障害者差別解消法により、企業などの事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。
これはサービスの利用時や職場で障害者が直面する困難を取り除くための措置を求めるもので、企業は正当な理由なくサービスの提供を拒否することはできません。
多様な顧客層への対応(市場拡大)
企業や店舗でのサービスにおいて、難聴や聴覚障害者も重要な顧客層の一部です。
筆談や手話案内サービスなど適切なコミュニケーション手段を取り入れることで、より多くの顧客にサービスを利用してもらうことが可能になります。
結果として、市場の拡大と収益機会の創出に繋がるのです。
社会的責任と企業イメージの向上
障害者が活躍できる環境を提供することは、企業の大きな社会貢献に繋がります。
支援を通じて多様な人材を受け入れる姿勢は、企業のブランドイメージや信頼性の向上に貢献しSDGs(持続可能な開発目標)の推進にも繋がります。
SDGsについては、別記事で紹介します。
聴覚障害者をサポートするための対策や工夫
多くの企業では難聴や聴覚障害のある人をサポートするために、さまざまなアクセシビリティ向上策を提供しています。
コミュニケーション支援
サービスを提供する企業では、難聴や聴覚障害のある人のためにコミュニケーションを支援するツールを用意しています。
例えば音声認識・文字変換アプリは、音声をリアルタイムで文字に変換するスマートフォンアプリです。
また店舗やサービスカウンターなどの窓口に設置されたタブレットなどを通じて、遠隔地のオペレータが手話または文字で通訳を行う遠隔手話・文字通訳サービスもあります。
これにより、対面での顧客対応やオンライン会議でのコミュニケーションが円滑になります。
窓口対応の工夫
公共・民間施設などの受付窓口やサービスカウンターでは、耳マークを表示したプレートを設置したり筆談ボードを用意したりしています。
また商品を販売する店舗では、レジ横に「レジ袋の要・不要」などを指差して意思表示できるイラスト入りシートを導入している事例も見られます。
目で見て視覚的にやりとりができる方法での意思疎通が工夫されているのです。
耳マークについては、下記記事もご参考ください。

緊急速報の通知
サービスを提供する企業にはテレビやラジオからの緊急速報がわかりにくいという課題に対し、振動で緊急速報を知らせたり点字や拡大文字で情報を提供するなどの対応策が提案されています。
駅のホームや電車内では案内ボード、商業施設内にはデジタルサイネージが設置されており文字による伝達も可能です。
聴覚障害者へのサポートに力を入れる主な企業例
サービスの提供において難聴や聴覚障害のある人をサポートしている主な企業は、以下の通りです。
上記は筆者がサービスを利用する上で聴覚障害者へのサポートを確認した企業のため、あくまで一例として参考にしてください。
次項からは、上記で紹介した企業それぞれの難聴者や聴覚障害者へのサポート内容を紹介します。
ソニー銀行

ソニー銀行では、耳や言葉が不自由な人を対象とした「手話・筆談サービス」の提供を2025年1月に開始しました。
手話・筆談サービスの概要
ソニー銀行の手話・筆談サービスは、ろう難聴者の代理電話・遠隔手話通訳サービスを手がけるプラスヴォイスの協力のもとで、聴覚障害のある人も手話や筆談で商品サービスに関する問い合わせができるサービスです。
通訳者が問い合わせを手話や筆談で受け付け、カスタマーセンターに電話を繋ぎリアルタイムで聴覚障害のある人とのやりとりを双方向に通訳します。
手話通訳サービスを提供することにより、手話や筆談で話したい人も音声で話す人と同等にリアルタイムでカスタマーセンターへお問い合わせできるようになります。
手話・筆談サービスの利用方法
手話・筆談サービスは、ソニー銀行のサービスページより利用できます。
手話通訳者が利用者の問い合わせをソニー銀行に通訳で伝え、ソニー銀行からの回答内容を手話通訳して利用者に伝えます。
なお、問い合わせは商品サービスに関する一般的な内容のみです。
手話通訳者に口座番号などの個人情報(要配慮個人情報を含む)を伝えないようにしてください。
Webブラウザを使ったテレビ電話となるためGoogle Chrome・Firefox・Safariは対応できますが、Android端末(Xperiaなど)や一部のブラウザには対応していない点には注意が必要です。
ファミリーマート

ファミリーマートでは、聴覚や言語に障害のある人や高齢者の人が来店の際に買い物をサポートするための取り組みとして「コミュニケーション支援ツール」を2023年4月から全国のファミリーマート約16,500店に導入しています。
コミュニケーション支援ツールとは
コミュニケーション支援ツールは企業で取り組んでいる5つのキーワードの1つ「あなたのうれしい」の一環で、レジの接客時に利用者に対して購入を希望する商品や要望などを伺うことができるボードとシートです。
買い物をサポートするツールは2022年11月より一部店舗にて先行展開を実施しており、文字やイラストのサイズを大きくするなど改良を加え、全国の店舗のレジカウンター内に設置しています。
ポイントカードの有無、割り箸やスプーンの必要可否、他にもホットスナック商品などの要望を伺うことが可能です。
またレジカウンターに貼付されているシートは、買い物の際に伺う機会の多いレジ袋や電子レンジによる温めの必要可否の要望に加え、支払方法の選択ができるようになっています。
スマートフォンでの掲示も可能
コミュニケーション支援ツールの導入により、聴覚や言語に障害のある人や高齢者の人などより多くの利用者とのコミュニケーションをよりスムーズに行えるようにするとともに、ファミリーマートでの買い物をサポートします。
ファミリーマートの公式サイトでは、コミュニケーション支援ツールのデータを公開しています。
日本語はもちろん英語・中国語(簡体字)・韓国語に対応し必要とする人が自由にダウンロードできるため、A4サイズで印刷したりスマートフォンなどに表示したりして活用することが可能です。
ファミリーマートの取り組み
ファミリーマートは「あなたと、コンビに、ファミリーマート」のもと、地域に寄り添い利用者1人ひとりと家族のようにつながりながら、便利の先にあるなくてはならない場所を目指しています。
聴覚障害のある人はあらゆる全てのことを把握しているのに、健常者を前提とした店内空間になっているためにできないことがあるわけです。
そんな時にコミュニケーション支援ツールは、対面販売においてその障壁を取り除いてくれます。
スターバックスコーヒー

スターバックスコーヒーの一部店舗では聴覚障害のある店員が対応することがあり、聴覚に障害をもつ利用客に対してもスムーズに対応できるような体制が整っています。
スターバックスの取り組み
スターバックスで聴覚障害のある店員が対応する時は、指差しで注文する専用のメニューシートが差し出されます。
聴覚に障害をもつ人への対応も専用のメニューシートを使ってスムーズに注文できるようになっています。
筆者が時々利用するスターバックスの店でも自分が聴覚障害者であることに気づいてくれたのか、手話で「ありがとう」と伝えてくれます。
筆者は発話することで言語を覚える訓練を受けたため手話はできませんが、簡単な手話は覚えていたため同じように「ありがとう」と返しました。
また、聴者の店員でもテイクアウト用の紙コップにメッセージを添えてくれることもあります。
国内初のサイニングストア
2020年6月にオープンしたスターバックスコーヒー nonowa国立店(東京都国立市)は、公式サイトによると店舗スタッフの半数以上が聴覚障害者です。
国内初のサイニングストアとして指差しボードが用意されていたり手話を学べる掲示やデジタルサイネージなどが用意されていたりと、コミュニケーションが図りやすい工夫がされています。
サイニングストアとは手話を共通言語とした店舗のことを指し、スターバックスではマレーシア、アメリカ、中国で展開しておりnonowa国立店は世界で5店舗目です。
障害の有無に関係なく全ての人が利用でき、手話ができない人には指差しで注文できる専用のメニューシートや筆談具も用意されています。
携帯電話キャリア

スマートフォンの普及により携帯電話会社の店舗窓口でも聴覚障害をもつ人への対応を行っていますが、会社によって対応が異なります。
ここでは3大キャリアとも呼ばれるSoftbank・docomo・auのサポートを紹介しますので参考にしてください。
Softbank(ソフトバンク)
ソフトバンクでは、聴覚障害者の人向けの専用お問い合わせ窓口を3つの方法で設けています。
手話カウンター・遠隔手話対応ショップ
手話カウンターは渋谷店と名古屋店のみですが、両店舗には手話スタッフが常駐しています。
手話が使えない人には、筆談での対応も可能です。
機種選びから操作方法の説明、料金プランの相談・契約の手続きまですべて手話や筆談で対応できます。
遠隔手話対応ショップは、iPhoneやiPadに標準で付属されているFaceTimeというアプリ機能を使った問い合わせサービスです。
手話スタッフが常駐するソフトバンク渋谷店の手話カウンターと画面を通じて問い合わせができる仕組みで、携帯電話に関するさまざまな質問や操作方法、相談、契約まですべて遠隔地からの手話対応にて行います。
遠隔手話対応ショップは、現時点で仙台クリスロード店・銀座店・表参道店・六本木店・グランフロント大阪店の5店舗です。
チャットでの問い合わせ
ソフトバンクでは、チャットによるサポートも行っておりスマートフォンやパソコンから文字のやりとりで問い合わせが可能です。
FAXでの問い合わせ
聴覚障害をもつ人や電話での問い合わせが困難な人向けには、FAXでの問い合わせもできます。
docomo(ドコモ)
ドコモの一部店舗では、手話で会話される人も気軽に利用できるよう手話サポートテレビ電話による応対サポートがあります。
テレビ電話による応対が可能な店舗は、現時点で926店舗です。
au(KDDI)
auショップでは、携帯電話の購入から使い方の説明・修理などのアフターサービスにいたるまで聴覚に障害のある人をサポートします。
手話接客対応店舗・遠隔手話接客対応店舗
一部の店舗では、よりスムーズにコミュニケーションがとれるよう手話による対応のほか簡易筆談器を配備しています。
手話通訳による問い合わせ対応
またビデオ通話を利用した手話による問い合わせ対応を行っています。
金融機関

最初のほうでソニー銀行のサポート対応を紹介しましたが、他の金融機関でも聴覚障害をもつ人への対応を行っています。
ただし店舗窓口では手話や筆談など聴覚障害のある人へのサポートは行っているものの、電話やインターネットによる問い合わせについては各社によって対応が異なります。
ここでは、3大メガバンクとも呼ばれる三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行のサポートを紹介しますので参考にしてください。
三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行では、手話通訳リレーサービスを使うことで耳や言葉が不自由な人も紛失・盗難の連絡を行うことができます。
Skype、LINE、FaceTimeというビデオ通話アプリから三菱UFJ銀行手話通訳リレーサービスのアカウントへテレビ電話を使って手話または筆談で対応するサポートです。
三井住友銀行
三井住友銀行では、聴覚に障害のある人専用のお問い合わせ受付フォームがあります。
言語障害により電話または来店による問い合わせが難しい人も含め、問い合わせが可能ですので下記ページをご参考ください。
みずほ銀行
みずほ銀行では、聴覚・言語などに障害がある人向けに3つのサポート体制を行っています。
みずほ銀行手話通訳サービス
みずほ銀行の手話通訳サービスは、耳や言葉が不自由な人がビデオ通話を使って手話または筆談で話すことができるサービスです。
LINE、Skype、FaceTimeのみずほ銀行手話通訳サービスのアカウントへビデオ通話にて連絡することで、キャッシュカードなどの紛失・盗難の連絡および商品・手続きに関する問い合わせを行うことができます。
詳しい利用方法やLINE、Skype、FaceTimeのアカウントについては、下記ページをご参考ください。
メール・チャットサービス
みずほ銀行では、メールやチャットにて各種商品・サービスなどのお問い合わせを受け付けています。
電話リレーサービス
聴覚や発話に困難のある人は、紛失・盗難によるみずほ証券カードの利用停止やネット倶楽部のログインロックなど緊急性の高い対応が必要な場合において、専用ダイヤルにて電話リレーサービスを利用できます。
電話リレーサービスの専用ダイヤルについては、下記ページをご参考ください。
参考:聴覚・言語等に障がいがあるお客さまへのご案内(みずほ銀行)
他の金融機関での問い合わせ対応については、各社の公式サイトで確認しましょう。
電話リレーサービスとは
金融機関の多くは、問い合わせ対応の1つとして電話リレーサービスがあります。
電話リレーサービスは、聴覚や発話に障害や困難のある人が聴者との会話を通訳オペレータが手話または文字・音声で通訳することにより電話で即時双方向につながることができるサービスです。
同サービスは、総務大臣が指定する一般財団法人日本財団電話リレーサービスが提供しています。
電話リレーサービスの利用には、事前の登録が必要です。
詳しくは、一般財団法人日本財団電話リレーサービスの公式サイトをご参考ください。
企業における聴覚障害者への独自サポートまとめ
カフェやコンビニ、携帯会社、金融機関までそれぞれが独自の体制で取り組んでくれているおかげで、難聴の人や聴覚障害をもつ人へのサポートが浸透しつつあります。
もちろん上記で紹介した企業や店だけが、聴覚障害をもつ人へのサポートを行っているわけではありません。
しかしレストランや食品店、ファッションブランドでもサポートしてくれるものの、多くは対応したことのある店員が個別に対応できるケースが多いのが実情です。
例えばレストランで料理と一緒に飲み物を注文した時に飲み物を食前・食後のどのタイミングでもってくるか、コンビニではレジ袋や割り箸が必要かなど店員さんの気遣う言葉が聞き取れないこともあります。
そんな時に筆者は、注文やレジの時に先行して必要な回答を伝えるようにしています。
料理と飲み物を注文したら飲み物は食後でいいです、商品をレジに置いたら袋も割り箸も要りませんと、同じように聴覚障害をもつ人も同じようなことをしているかもしれません。
ほんの少しの気づきでお互いが助け合い精神をもちながら、スムーズにやりとりしていけたらいいですね。
以下の記事では、外見からは見えにくいとされる難聴の人や聴覚障害者の特徴あるあるを紹介しています。
周囲の人に手間や面倒をかけないように先回りする行動、筆者が普段から心がけていることについて参考にしてください。

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