
聞こえない・聞こえにくいことを示す標識やマーク。
難聴・失聴の人や聴覚障害がある人など、耳が不自由な人のためのシンボルマークがあることをご存知でしょうか。
例えば耳マークは、耳が不自由であることを示すとともに聞こえない人・聞こえにくい人への配慮をお願いするマークです。
病院や公共施設などの受付窓口でも耳マークを掲示することで聴覚障害をもつ人へ配慮した対応を行っており、他にも意味や目的をもつ標識やマークがあります。
耳が不自由な人に配慮した標識やマークとしてどんなものがあるのか。
難聴・聴覚障害のある人のために使われている標識やマークがどのような経緯でできたのか、どんな意味や役割があるのか解説します。
聴覚以外で他の身体障害を抱えている人の標識・マークの一例も紹介しますので、本人の活用情報としてだけでなく家族や友人など周囲の人たちの留意事項としてもご参考になれば幸いです。
耳が不自由な人のための標識・マーク一覧
難聴・失聴や聴覚障害など耳が不自由な人に配慮した標識・マークには、どんなものがあるのでしょうか。
名称 | 概要 |
---|---|
耳マーク | 耳が不自由なことを示すと同時に聞こえない人や聞こえにくい人への配慮を表すマーク |
聴覚障害者標識 (聴覚障害者マーク) | 自動車免許をもっている聴覚障害者が自分の車に表示させるマーク |
ヒアリングループマーク | 補聴器や人工内耳に内蔵されている磁気誘導コイルを使って利用できる施設・機器が表示するマーク |
手話マーク | 耳の不自由な人が手話での対応が必要であることを示すマーク |
筆談マーク | 耳や言語・発話に不自由な人が筆談での対応が必要であることを示すマーク |
ほじょ犬マーク | 身体障害者補助犬法の啓発のためのマーク |
次項からは、標識・マークそれぞれについて具体的に説明していきます。
耳マーク

耳の形をモチーフにした緑色の耳マークは、聴覚に障害があることを自ら示すためのシンボルマークです。
耳マークの意味や役割
聞こえない・聞こえにくいことは、日常生活を送る上で困難な場面が多いものです。
聴覚障害者は、見た目から障害そのものがわかりにくいために周囲から誤解されたり危険にさらされたり、不利益なことを被ったりするなど社会生活を送る上で不安や危険が数多くあります。
また、耳が不自由なため書いてくださいと相手にお願いするのも勇気がいります。
そんな聞こえないことが原因で多くの場面でつらい思いをした難聴者が、耳が不自由である自己表示をするために考案したのが耳マークです。
目が不自由な人の白い杖や点字ブロックなどと同じように、周囲の人たちに対して耳が不自由であること、自分が聴覚に障害を抱えていることを伝える役割があります。
耳マークの歴史
耳マークの歴史は古く、1975年(昭和50年)に愛知県名古屋市の聴覚障害者福祉連合会難聴部で「耳のシンボルマーク」が制定されました。
聞こえないことでつらい思いをした難聴者が、耳が不自由であるという自己表示が必要だと考案したことがきっかけです。
名古屋市が発祥となった耳マークは、1976年(昭和51年)の日本身体障害者団体連合会札幌大会で全国統一が決定します。
次第に街頭パレードやテレビ放送などで訴求活動を広げていき、聞こえない人たちの存在と立場を社会に認知してもらい、コミュニケーションの配慮などの理解を求めていくためのシンボルとして普及していきました。
2003年(平成15年)に耳マーク考案者の遺族である著作権継承者から正式に譲渡され、文化庁に「耳マーク」譲渡登録が完了しました(耳マーク登録番号19363号の1)
全難聴理事会で耳マーク利用・管理規定が承認され、この規定に基づき全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が耳マークの利用と管理を進めていくことになったのです。
耳マークのデザイン・表記
耳マークのデザインは、耳に音が入ってくる様子を矢印で示すことで一心に聞き取ろうとする姿を表したものです。
聞こえないためにさまざまな場面で苦渋を味わった難聴者が考案したアイデアであり、聴こえの向上や聴覚障害者の保障を求めていく積極的な生き方の象徴にもなっています。
これまでは「耳のシンボルマーク」という名称でしたが、「耳マーク」の表記に統一することになり印刷物やグッズなどの表記も順次対応しています。
耳マークの活用事例
耳マークを表示できるのは、本人だけに限りません。
自治体や病院、銀行などのさまざまな施設で耳マークを掲示することによって、聴覚障害者が援助をお願いしやすくなるという環境づくりにも利用されています。
最近では、以下のような活用が報告されています。
・ファミリーマートのアプリ「ファミペイ」に「耳マークボタン」(お買い物サポート機能)を追加
・全国のドン・キホーテやアピタ、ピアゴなどで「コミュニケーションボード」を導入
他にも全日本難聴者・中途失聴者団体連合会では、表示板・シール・カード・バッジ・FAX用紙・メモ帳・ポスターなどの耳マークグッズを販売しています。
耳マークの利用について
耳マークは聞こえない人たちの存在と立場を社会一般に認知してもらい、コミュニケーションの配慮など理解を求めていくためのシンボルです。
耳マークを利用したい場合は、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会の許諾を得る必要があります。
利用申請を行えば手数料・利用料は不要ですので、当会の公式サイトなどで確認してください。
なお耳マークグッズを購入し、設置するなどの場合の利用申請は不要です。
参考・所管先:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
聴覚障害者標識(聴覚障害者マーク)

蝶の形をイメージした聴覚障害者標識は聴覚障害者マークとも呼ばれ、普通自動車免許をもっている聴覚に障害がある人が自分の車に表示させるシンボルマークです。
聴覚障害者標識の利用条件・注意点
聴覚障害者標識は、運転免許をもつ聴覚障害者が自らが運転する車に表示させる標識・マークです。
2008(平成20年)年6月1日の道路交通法改正により、聴覚障害者に関わる免許の欠格事由(法律上要求されている資格を欠くこと)の見直しに伴い導入されました。
運転免許を取得するための従来の基準は、補聴器装用による聴力を含めて10メートルの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえるという条件です。
この条件に満たさない人でも運転する車種を限定した上で、特定後写鏡(ワイドミラーまたは補助ミラー)を設置することを条件に運転免許を取得できるようになりました。
ただし聴覚障害者が取得できる運転免許は普通免許と二輪免許だけであり、中型免許・大型免許などは取得できません。
聴覚障害者標識の表示は義務であり、違反すると反則金4000円などが課せられます。
なお排気量が50cc超400cc以下の二輪自動車(オートバイ)については、構造上表示が難しいため表示義務の対象から除外されています。
聴覚障害者標識の意義・目的
聴覚障害者標識をつけた自動車を見かけた際には、周囲を運転する普通の健聴者が運転に注意を払う必要があり運転する聴覚障害者を保護する義務があります。
聴覚障害者は、聴力の程度によってクラクションの音が聞こえません。
聴覚障害者標識をつけた車を見かけたら、早めに減速するなどして車間距離をとることが大切です。
また危険防止のためにやむを得ない場合を除き、聴覚障害者標識をつけた車に幅寄せや割り込みなどを行った運転者は道路交通法の規定により罰せられます。
聴覚障害者標識のデザイン
聴覚障害者標識は、円形の緑地に黄色い蝶が飛んでいるようなイメージがあります。
しかし実は当初から蝶の形を意識したわけではなく、2つの耳をモチーフに図案化したもので全体的に蝶にも見えるようにデザインされたものです。
聴覚の「聴」と「蝶」をかけて蝶のマークになったという話もありますが、確かな根拠もなく世間にいい伝えられている俗説とされています。
同じ意味をもつ身体障害者標識
聴覚障害者標識とは別に、円形の青地に白い四つ葉のクローバーをイメージした身体障害者標識(身体障害者マーク)があります。
身体障害者標識は肢体不自由な障害者が普通自動車を運転する際に表示できる標識・マークで、聴覚障害者標識と同じ意味をもっています。
身体障害者標識については、別記事で解説します。
参考・所管先:警察庁(交通局交通企画課)
ヒアリングループマーク

耳マークに「T」の文字を重ねたヒアリングループマークは、補聴器や人工内耳に内蔵されている磁気誘導コイル(テレコイル、Tコイル)を使って利用できる施設・機器であることを表示するマークです。
このマークを掲示する施設・機器は、補聴器・人工内耳の装用者に補聴援助システムがあることを知らせ利用を促すことを目的にしています。
ヒアリングループとは
ヒアリングループ(旧:磁気誘導ループ)は、難聴者の聴こえを支援する設備でループアンテナ内で誘導磁界を発生させることにより音声磁場をつくります。
磁界を発生させるループアンテナを輪のように這わせることから呼ばれています。
仕組みとしては音声信号をヒアリングループアンプを通し、床などに敷設したループアンテナ(多芯ケーブル)に電気信号として送ります。
ループアンテナ内で誘導磁界が発生し音声磁場ができるため、誘導コイル付補聴器(補聴器のTマーク)で音声信号として聞くことができます。
ヒアリングループを導入することにより周辺の騒音・雑音に邪魔されず目的の音・声だけを正確に聴き取ることが可能です。
また補聴器や人工内耳をTマークに切り替えることでループよりの支援が受けられます。
T付き耳マークから改称
全日本難聴者・中途失聴者団体連合会では2017年(平成29年)に、聴覚障害者の補聴援助システムとして全国的に活用されている「磁気誘導ループ」の呼称を「ヒアリングループ」に変更しました。
理由は「磁気」という言葉がペースメーカーや医療機器などに悪影響を及ぼすと誤解されがちであること、2020年に開催された東京オリンピック・パラリンピックを前に海外に向けてこのシステムをアピールするための改称でもあります。
この呼称変更に伴い、従来のマーク名「T付き耳マーク」が「ヒアリングループマーク」に変更されました。
参考・所管先:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
手話マーク

輪を描くように両手を動かした形の手話マークは、手話を使った対応が可能であることを知らせるマークです。
手話マークの対象・デザイン
とくに手話を母語とするろう者(聾者)が、手話で対応してもらえることがわかるマークとして安心して利用できるように全日本ろうあ連盟が作成しました。
ろう者など手話を必要としている人を対象に、海外への普及も考えたデザインとして5本指で手話を表す形を採用し輪っかで手の動きを表現しています。
メインとなる手の色は遠くから見ても識別しやすい青を使い、手の色と区別しやすいように手の動きにはオレンジを採用しています。
手話マークの意味・役割
手話マークは、役所をはじめ公共施設や民間施設、交通機関、店舗といった窓口など手話言語による対応ができる場所で提示できます。
イベント時のネームプレートや災害時に支援者が身につけるビブス(胸当て)などに提示することも可能です。
また聞こえない・聞こえにくい人が、手話言語でのコミュニケーションの配慮を求める時にも手話マークを提示することもあります。
よって手話マークの掲示には、以下の大きな2つの役割があります。
- 耳の不自由な人が「手話言語で対応をお願いしたい」
- さまざまな施設の窓口などが「手話言語で対応できる」
参考・所管先:一般財団法人全日本ろうあ連盟
筆談マーク

用紙の上でペンをもった手が前後に並んでいる形の筆談マークは、筆談での対応が可能であることを知らせるマークです。
筆談マークの対象・デザイン
筆談マークの対象者は、ろう者や聴覚障害者のほか音声言語障害者、知的障害者、外国人なども含みます。
手話を扱える人は限られていることが現実にあるため、筆談を必要としている人と相互で用紙に文字などを書くことによるコミュニケーションを表現しています。
メインとなる手の色は遠くから見ても識別しやすい青を使い、手の色と区別しやすいように手の動きには補色関係にもあたるオレンジを採用しています。
筆談マークの意味・役割
筆談マークは、役所をはじめ公共施設や民間施設、交通機関、店舗といった窓口など筆談による対応ができる場所で提示できます。
イベント時のネームプレートや災害時に支援者が身につけるビブス(胸当て)などに提示することも可能です。
聞こえない・聞こえにくい人だけでなく発話ができない人や言語に障害をもつ人など、筆談によるコミュニケーションの配慮を求める時にも筆談マークを提示することもあります。
よって筆談マークの掲示には、以下の大きな2つの役割があります。
- 耳だけでなく発話や言語にも不自由な人が「筆談で対応をお願いしたい」
- さまざまな施設の窓口などが「筆談で対応できる」
参考・所管先:一般財団法人全日本ろうあ連盟
ほじょ犬マーク

ほじょ犬マークは、身体障害者補助犬法の啓発のためのマークです。
公共施設や交通機関をはじめデパートやレストランなどの民間施設は、身体障害者補助犬法において聴導犬を同伴する聴覚障害者やろう者の人を受け入れる義務があります。
聴覚以外でも視覚障害者を補助する盲導犬や、障害者の日常生活を助ける介助犬も身体障害者補助犬に該当します。
ほじょ犬マークについては、別記事で解説します。
聴覚以外の障害者に関する標識・マークの一例
聴覚障害者に限ったことではありませんが、すべての障害者を対象とした標識やマークがあるのをご存知でしょうか。
世界共通のシンボルマークもあり、耳が不自由な人だけでなく他にも身体に障害を抱えている人もいるため覚えておくとよいでしょう。
障害者のための国際シンボルマーク
障害者のための国際シンボルマークは、車いすの人に限らず障害のある全ての人が利用できる建物や施設を示す世界共通マークです。
盲人のための国際シンボルマーク
盲人のための国際シンボルマークは、視覚に障害のある人の安全やバリアフリーを考慮した世界共通のマークです。
ほじょ犬マーク
ほじょ犬マークは、身体障害者補助犬同伴の啓発のためのマークです。
ハートプラスマーク
ハートプラスマークは、内部障害や内臓障害のある人を示すマークです。
ヘルプマーク
ヘルプマークは、外見からわからない障害や難病、妊娠初期の人のために作られたマークです。
上記に挙げた障害者に関する標識・マークについては、別記事で紹介します。
聴覚障害者の標識・マークの役割まとめ
耳が不自由な人は見た目では判断が難しく、誤解されたり不便な場面も少なくありません。
そんな時に耳マークなど聴覚障害者であることがわかる標識やマークを身につけることで、周囲から事情が理解されやすくなり不安が軽減されます。
耳マークを提示された際は声が聞き取りにくいということを理解した上で、ゆっくり話したり筆談をしたりするなどの対応を心がけることが大切です。
他にも聴覚に関わらず、他の身体に障害がある人のための標識やマークもあります。
家族や友人などを含む周囲の人たちは、これらのマークが掲示された意味や役割を知って対処してあげてください。
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