
聴覚障害者とは、耳が不自由で聞こえない・聞こえにくいといった聴覚に障害がある人のことです。
普通の健聴者よりも小さく聞こえるほか音としては聞こえるものの相手の話す内容が聞き取りにくいなど、聞こえ方は人によって異なります。
では聴覚障害とは具体的にどんな状況なのか、どういった状態にある人が聴覚障害者に該当するのか。
この記事では聴覚障害の原因や聞こえ方の状態、聴覚障害者として認定される基準について解説します。
また、中途失聴者や聾者(ろう者)の扱いについても紹介しますので参考にしてください。
聴覚障害とは

聴覚障害は、音を聞く・感じる経路に何らかの障害があり、周囲の音がほとんど聞こえなかったり相手の話す言葉の内容が聞こえにくかったりする状態を指します。
聴覚障害の原因
医学的にいわれている聴覚障害とは、外部からの音声情報を脳に送るための部位(外耳・中耳・内耳・聴神経)のいずれかに障害があるために聞こえにくい、あるいは聞こえなくなっている状態のことです。
例えば外耳から中耳に障害がある状態を伝音難聴、内耳から聴神経にかけて障害がある状態を感音難聴といいます。
また、伝音難聴と感音難聴の両方に障害がある混合難聴もあります。
部位による難聴の種類については、別記事で紹介します。
聴力や聞こえ方には個人差がある
聴覚障害とひと口にいっても聴力の程度や聞こえ方、言語発達の状態は人によって異なります。
例えば音量が小さくなったように聞き取りづらい、音質が歪んだように聞こえる、音は聞き取れるが内容が聞き分けにくい、補聴器をつけても音や声がほとんど聞き取れないなどさまざまです。
聴覚障害の多くを占める感音難聴の場合、とくに音声情報を音としては認識していても言葉として正確に内容を聞き取ることが難しいです。
また目の前にいる相手1人とは話す言葉が通じても、複数人となるとどの場面で誰が何を話しているのか音声のみで把握することが非常に困難になります。
複数人での雑談、授業や会議の際の質疑応答、ディスカッションなども同じく困難なことが多いです。
そのため、聴覚障害のある人にはできるだけ早い段階から適切な対応を行います。
音声言語をはじめ、他の多様なコミュニケーション手段を活用してその可能性を最大限に伸ばすことが重要です。
補聴器をつけても聞き取れないことがある
聴力を補う補聴器の装用によってある程度の音声を聞き取れますが、軽い難聴の人であっても周囲に雑音がある場合やコンクリートの壁に囲まれた反響の多い場所などでは聞き分けることが困難です。
またマイクを通した音声や映像を流した音声は、補聴器との機械音によるぶつかり合いで肉声に比べると聞き取りにくくなります。
補聴器の装用に関係ありませんが、聴覚障害のある人にとっては話す相手によって聞こえやすい人と聞こえにくい人がいます。
モグモグとはっきりしない話し方や滑舌の悪い人とは、会話が通じにくくなってしまうことも特徴です。
聴覚障害者の認定基準
では、聴覚障害者に該当する人とはどういった認定基準なのでしょうか。
聴覚障害者の基準は聴力レベル
聴覚障害者として認定される基準は、主に両耳の聴力レベルによって決まります。
身体障害者福祉法では、両耳の聴力レベルが70デシベル(dB)以上の場合に6級の聴覚障害者として認定すると定められています。
聴覚障害者として認定される聴力レベルは、以下の通りです。
障害等級 | 聴覚障害の程度(聴力レベル) | 補足 |
---|---|---|
2級 | 両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上のもの(両耳全ろう) | 大きな音にしか反応できない状態やガード下で電車が上を通っても聞こえない状態 |
3級 | 両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの) | 大声でも耳の近くでないと理解できない状態で重度の難聴とされる |
4級 | 両耳の聴力レベルが80デシベル以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)・両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの | 耳の近くで話すと理解できる状態で通常会話を両耳で理解できるのが50%以下 |
6級 | 両耳の聴力レベルが70デシベル以上のもの(40cm以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの)・一側耳の聴力レベルが90デシベル以上、他側耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの | 相手が40cm以上離れてしまうと会話が理解できない状態と片耳は90デシベル以上でもう一方の聴力レベルが50デシベル以上 |
聴覚障害における等級は2級・3級・4級・6級に分けられ、1級と5級はありません。
聴力レベルはデシベル(dB)という単位で表され、聴覚に障害のない健聴者を0デシベルとし数字が大きくなるほど聴覚障害の程度は大きくなります。
聴覚障害者に該当しない聴力レベル
まず正常な聴力レベルは、0~25dB未満で普段の会話に問題がない状態です。
そこへ25~40dB未満の聴力レベルとなると軽度難聴に該当しますが、25dBは小さな音は聞こえにくい状態で日常生活には問題がないことから聴覚障害者に該当しません。
そして40~70dB未満の聴力レベルになると中等度難聴に相当します。
通常の話し声が60dBであり、日常を過ごす上でとくに影響を与えないことから聴覚障害者にあたらないことがいえます。
軽度・中等度難聴の程度における生活音の目安は、以下を参考にしてください。
聴力レベル | 難聴の程度 | 生活音の目安・聞こえ具合 |
---|---|---|
0~25dB未満 | 正常 | 20dB:寝息 |
25~40dB未満 | 軽度難聴 | 25dB:紙に鉛筆で文字を書く音 30dB:深夜の郊外の静けさ 40dB:小さな声での会話 |
40~70dB未満 | 中等度難聴 | 50dB:エアコン室外機の音 60dB:普通の話し声 70dB:賑やかな室内 |
6級の場合の聴力レベル
聴覚障害6級は、両耳の平均聴力レベルが70dB以上にあることが基準です。
40cm以上の距離で発声された会話語を理解し得ないものと補足されています。
また片耳の聴力レベルが90dB以上で、もう片耳の聴力レベルが50dB以上の場合も6級です。
70dBの音は騒がしい店内の音が目安で、大きな声でも聞こえにくいかもしれません。
聴覚障害の等級に5級はない
聴覚障害の等級に5級は存在しません。
聴覚障害の等級は、両耳の聴力レベルや言語障害の有無、その他身体機能の状況などを総合的に判断して決定されます。
5級の等級がないのは4級と5級、5級と6級の間の差がわずかであり、聴覚障害の重症度を適切に区分するためです。
4級の場合の聴力レベル
聴覚障害4級は、両耳の聴力レベルが80dB以上が基準です。
耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの、両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のものと補足されています。
具体的には耳の近くで話すと理解できる状態で、通常の会話を両耳で理解できるのが50%以下の場合も4級に該当します。
80dBの音は走行中の地下鉄車内が目安で、大きな声でも聞こえにくいことが多いです。
3級の場合の聴力レベル
聴覚障害3級は、両耳の聴力レベルが90dB以上にあることが基準です。
耳介に接しなければ大声語を理解し得ないものと補足されており、具体的には大声でも耳の近くでないと理解できない状態で重度の難聴とされます。
90dBの音は叫び声やカラオケ店内の歌っている声の音圧レベルに相当し、日常会話はほぼ聞こえない状態です。
2級の場合の聴力レベル
聴覚障害2級は、両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB以上にあることが基準です。
両耳全ろうとなり、大きな音にしか反応できない・ガード下で電車が上を通っても聞こえない状態を意味します。
聴力における生活音の目安については、別記事で紹介します。
聴覚障害の等級に1級は存在しない
5級と同じく、聴覚障害の等級には1級も存在しません。
これは他の障害区分とのバランスから、とくに重度の場合(1級・2級)には言語障害など他の障害との重複を考慮して認定されるためです。
例えば聴覚障害のみでは2級に相当し、言語機能障害が3級である場合は重複障害として1級という認定になります(言語機能障害は3級と4級のみ)
障害区分全体の整合性をとるために、聴覚障害のみでは1級とまではいかない障害状況であるとの判断です。
中途失聴者・ろう者の場合の扱い
難聴者や聴覚障害者とは別に、中途失聴者や聾者(ろう者)という言葉を聞いたことのある人もいるのではないでしょうか。
中途失聴者の場合
聴覚障害者の中には、もともと聞こえていて人生の途中で聴力を失った中途失聴者も含まれます。
中途失聴者は、言語(日本語)を獲得した後に聴覚が低下したり失ったりした人を指します。
補聴器や人工内耳などを用いて音を聞き取る人もいますが、元聴者であったことから一般的な会話ができる人も多いです。
ろう者(聾者)の場合
ろう者は、生まれつきまたは言語を獲得する前に聴覚を失った人を意味します。
聴覚障害者の中でも、とくに手話をコミュニケーション手段として使用する人を指すことが多いです。
ろう者と聴覚障害者の違い
ろう者と聴覚障害者は、どちらも耳が聞こえにくい・聞こえない状態を指す意味では似ていますが、範囲やニュアンスに違いがあります。
ろう者
ろう者は、生まれつき・幼少期・言語を獲得する前のいずれかのタイミングで聴覚を失った人を指します。
聴覚に依存せず、手話を母語としてコミュニケーションをとっていることが主な特徴です。
聴覚障害者
聴覚障害者は、聴覚の機能に障害があるという広義の言葉です。
耳が聞こえにくい・聞こえない状態の人を指していることから高度・重度の難聴者や中途失聴者、ろう者も含まれます。
ろう者は聴覚障害者の中でも特定の人を指すことが多いですが、必ずしもその範囲に限定されるわけではありません。
個人のアイデンティティやコミュニケーション手段によって、自分のことを「ろう者」と認識している人もいれば「聴覚障害者」と認識している人もいます。
ろう者という言葉は社会的・文化的な意味合いもあるため、誤解や偏見を避けるためにも個人に合わせた適切な表現を心がける必要があります。
聴覚障害者に該当する基準まとめ
身体障害者福祉法における聴覚障害者の認定基準は、両耳の聴力レベルが70dB以上の状態です。
通常の話し声で60dBとされていることから、普通の会話で聞き取りが困難な場合には聴覚の障害に相当することがいえます。
聴覚障害には障害が起きた部位や時期、聴力レベルによってさまざまな状態が含まれることから高度・重度難聴の人をはじめ中途失聴者もろう者も聴覚障害者に該当します。
難聴や聴力低下を感じている人は、まず耳鼻咽喉科での検査で自分の聴力レベルを把握しましょう。
また聴覚障害とひと口にいっても難聴の状態や聞こえ方も1人ひとり異なるため、聴覚障害者とのコミュニケーション手段は状況に合わせて適切な手段を選んでやりとりをしていきましょう。
難聴や聴覚障害者のコミュニケーション手段については、別記事で紹介します。
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