
難聴や聴覚障害のある人でも、実は運転免許の取得ができることをご存知でしょうか。
従来より条件付きで乗用車の免許取得が可能でしたが、その後二輪車など免許取得ができる種類が拡大されました。
2012年の道路交通法施行規則の改正で全ての普通自動車の運転免許が取得可能になり、二輪・原付・小型特殊における聴力検査のみが廃止されたわけです。
この記事では、難聴の人や聴覚障害者が取得できる運転免許について説明します。
免許の種類に応じた義務や条件を理解しながら、自らの車で運転を楽しんだり遠出ができたりする機会になれば幸いです。
聴覚障害者でも運転免許の取得が可能

結論からいうと、難聴や聴覚障害のある人が運転免許を取得することは可能です。
条件付きであるものの、従来より普通自動車免許(乗用車)の取得ができます。
そこへ2012年(平成24年)4月1日より、聴覚障害のある人が運転できる自動車の種類が広がりました。
免許取得の可否
難聴や聴覚障害のある人が運転免許を取得するにあたって、これまでは普通自動車免許のみ可能でした。
しかし現在では、下記表のように普通自動車(貨物車)をはじめ大型二輪免許や普通二輪免許、小型特殊免許および原付免許も取得できることとなっています。
| 項目 | 普通自動車(乗用車) | 普通自動車(貨物車) | 原動機付自転車 | 小型特殊自動車 | 普通自動二輪車 | 大型自動二輪車 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2012年3月31日まで | ○(※) | × | × | × | × | × |
| 2012年4月1日から | ○(※) | ○(※) | ○ | ○ | ○ | ○ |
ただし普通自動車を運転するためには、後述する特定後写鏡や聴覚障害者標識を取り付けることが条件です。
貨物車とは、主に荷物の運搬を目的として設計されたトラックやバンを指します。
道路交通法上では「車両総重量が3.5トン以上、または最大積載量が2トン以上の貨物自動車」などが該当します。
運転免許における3つの取得条件
運転免許の規定ルールにおける聴覚障害のある人というのは、補聴器を使用しても10メートルの距離で90dB(デシベル)の音が聞こえない人です。
そんな聴覚障害者が運転するには、以下の通り3つの条件があります。
(1)適性検査を受ける
詳しくは後述しますが、自動車免許を取得する際には聴力にかかわる適性検査を受けることが必要です。
なお、大型二輪、普通二輪、小型特殊、原付の4つの免許については、適性検査から聴力に関する項目は廃止されています。
そのため、耳が全く聞こえない人でも補聴器などの条件なしでこれらのバイクや小型特殊車両を運転可能です。
(2)聴覚障害者標識を表示する
聴覚障害者が普通自動車を運転する時は、自らが運転する自動車に聴覚障害者標識をつけなければならないことになっています。
聴覚障害者標識についての詳しくは後述します。
(3)特定後写鏡を取り付ける
聴覚障害者が普通自動車を運転する時は、前述の聴覚障害者標識をつけるとともに特定後写鏡(ワイドミラーまたは補助ミラー)を取り付けることが義務となっています。
なお自動二輪車や原動機付自転車を運転する時は、バックミラーで見えない死角を自分の目で確認する必要があります。
聴覚障害者標識とは

蝶の形をイメージした聴覚障害者標識(聴覚障害者マーク)は、普通自動車免許をもっている聴覚障害者が自らが運転する車に表示させるシンボルマークです。
聴覚障害者標識の表示義務
聴覚障害者標識は、2008年(平成20年)6月1日の道路交通法改正により聴覚障害者にかかわる免許の欠格事由の見直しに伴い導入されました。
運転免許を取得するための従来の基準は、補聴器装用による聴力を含めて10メートルの距離で90dBの警音器の音が聞こえるというのが条件です。
この聴力における条件に満たさない人でも運転する車種を限定した上で、特定後写鏡(ワイドミラーまたは補助ミラー)を設置することを条件に運転免許を取得できるようになりました。
補聴器を使っても聞こえない人でも、ワイドミラーの装着と車の前後に聴覚障害者標識を貼ることを条件に普通自動車を運転することが可能です。
聴覚障害者標識の表示は義務であり、違反すると反則金4,000円などが課せられます。
なお排気量が50cc超400cc以下の二輪自動車(オートバイ)については、構造上表示が難しいため表示義務の対象から除外されています。
健聴者が聴覚障害者標識を見かけたら
聴覚障害者標識をつけた自動車を見かけた際には、周囲を運転する普通の健聴者が運転に注意を払う必要があり運転する聴覚障害者を保護する義務があります。
聴覚障害者は、聴力の程度によってクラクションの音が聞こえません。
そのため、聴覚障害者標識をつけた車を見かけたら早めに減速するなどして車間距離をとることが大切です。
危険防止のためにやむを得ない場合を除き、聴覚障害者標識をつけた車に幅寄せや割り込みなどを行った場合は道路交通法の規定により罰せられます。
聴覚障害者標識については、下記記事もご参考ください。

自動車と二輪車の免許取得における違い

難聴や聴覚障害のある人でも自動車に限らず、二輪車でも運転免許の取得が可能です。
自動車と二輪車の比較表
しかし自動車と二輪車の免許取得において条件や義務が異なりますので、以下の表を参考にしてください。
| 項目 | 自動車 | 二輪車 |
|---|---|---|
| 適性検査 | ○ | × |
| 聴覚障害者標識 | ○ | × |
| 特定後写鏡 | ○ | × |
聴力にかかわる適性検査
2012年4月の道路交通法施行規則の改正により、聴力にかかわる適性検査が廃止され補聴器の条件も不要になりました。
聴覚に障害があっても原動機付自転車・小型二輪免許・普通自動二輪・大型自動二輪の運転免許を取得できます。
なお普通自動車免許では適性検査があり、両耳の聴力が10メートル離れた場所で90dBの警音器の音が聞こえることが基準です。
補聴器の使用は認められており、基準を満たさない場合でも特定後写鏡(ワイドミラー)の使用と聴覚障害者標識の表示を条件に運転が可能な場合があります。
特定後写鏡と聴覚障害者標識
普通自動車や準中型自動車を運転する場合は、特定後写鏡(ワイドミラーまたは補助ミラー)の取り付けや聴覚障害者標識を表示することが義務です。
補聴器を用いても警音器の音(10mの距離で90dbの音)が聞こえない人でも、特定後写鏡などを活用することにより準中型車または普通車を安全に運転することができるものと認められています。
一方で二輪車は普通自動車とは異なり、聴覚障害者標識や特定後写鏡の取り付けは義務づけられていません。
運転免許を取得する前に
自動車や二輪車の運転免許を取得しようと考えている難聴や聴覚障害のある人は、事前に以下3つのことを確認しておきましょう。
安全運転相談
運転免許の取得を検討している難聴や聴覚障害のある人は、事前に運転免許センターや指定自動車教習所などで安全運転相談を受けることをおすすめします。
教習所への確認
教習所によっては、聴覚障害のある人に向けた教習に対応していない場合があります。
難聴の人に対応している教習所か、聴覚障害があっても免許取得が可能なのか実績などを事前に確認しておくとよいでしょう。
手話通訳の対応
教習所の規模によっては、手話通訳の対応可否が分かれます。
手話通訳が必要な人は、事前に教習所に確認・相談しておくとスムーズです。
運転免許取得までの流れ
前述の事前確認ができたところで、運転免許を取得するにはどういった手順を踏んでいったらいいのでしょうか。
ここでは、一般的な運転免許の取得として教習所に通う場合の流れを説明します。
(1)入校・適性検査
公安委員会公認の教習所に入校し、運転に必要な視力・聴力・色彩識別能力・運動能力などを検査します。
(2)教習を受ける
教習所に通って技能と学科の教習を受けます。
| 技能教習 | 基本的な運転操作から安全技術までを学ぶ |
| 学科教習 | 交通法規や安全運転に関する知識を学ぶ |
普通自動車免許の教習時間
普通自動車免許における教習時間の目安は、以下の通りです。
| 種別 | 自動車・MT | 自動車・AT |
|---|---|---|
| 1段階・技能 | 15時間 | 12時間 |
| 1段階・学科 | 10時間 | 10時間 |
| 2段階・技能 | 19時間 | 19時間 |
| 2段階・学科 | 16時間 | 16時間 |
| 合計 | 60時間以上 | 57時間以上 |
教習所のカリキュラムによりますが、普通自動車は1段階の技能・学科を終えた後に仮免許を取得するための試験があります。
教習所内のコースで仮免試験に合格したら2段階の技能・学科教習を受ける流れが一般的です。
MTというのは「マニュアルトランスミッション」の略で、クラッチペダルとシフトレバーを使って自分でギアチェンジを行うマニュアル車のことです。
ATとは「オートマチック限定」の略で、オートマチック車(AT車)のみを運転できる普通自動車運転免許を指します。
MT免許はマニュアル車だけでなくAT車も運転できる普通自動車免許ですが、AT車限定免許はAT車のみの運転に限定されます。
またMTは操作が複雑なため、ATに比べて技能教習が3時間多く定められています。
普通二輪免許の教習時間
普通二輪免許における教習時間の目安は、以下の通りです。
| 種別 | 二輪車・MT (普通免許あり) | 二輪車・AT (普通免許あり) |
|---|---|---|
| 1段階・技能 | 9時間(9時間) | 5時間(5時間) |
| 1段階・学科 | 10時間(免除) | 10時間(免除) |
| 2段階・技能 | 10時間(8時間) | 10時間(8時間) |
| 2段階・学科 | 16時間(1時間) | 16時間(1時間) |
| 合計 | 45時間(18時間) | 41時間(14時間) |
AT(オートマチック車限定)はクラッチやギアチェンジなどの操作が必要ないため、MT(マニュアル車)よりも教習時間が少なく卒業までの期間も短くなります。
普通自動車以上の免許を所有している人は、学科が1時間のみとなるため卒業検定を含めると最短1週間で卒業することが可能です。
小型二輪免許の教習時間
小型二輪免許における教習時間の目安は、以下の通りです。
| 種別 | 二輪車・MT (普通免許あり) | 二輪車・AT (普通免許あり) |
|---|---|---|
| 1段階・技能 | 6時間(5時間) | 3時間(3時間) |
| 1段階・学科 | 10時間(免除) | 10時間(免除) |
| 2段階・技能 | 6時間(5時間) | 6時間(5時間) |
| 2段階・学科 | 16時間(1時間) | 16時間(1時間) |
| 合計 | 38時間(11時間) | 35時間(9時間) |
普通自動車以上の免許を所有している人は、学科が1時間のみとなるため卒業検定を含めると最短6日間で卒業することが可能です。
(3)卒業検定
2段階の技能・学科教習を終えたら、卒業検定です。
自動車免許は一般道路、二輪免許は教習所内のコースで技能の最終確認を行い合格すると卒業証明書が発行されます。
(4)運転免許試験場で受験
(5)運転免許試験場での手続き
住民票のある都道府県の運転免許試験場へ行き、適性試験と学科試験(本試験)を受験します。
なお普通自動車以上の免許を所有している人が二輪免許を取得する場合は、学科試験が免除されます。
直接受験(一発試験)する場合
教習所に通わずに運転免許試験場で直接受験(一発試験)することも可能ですが、以下のメリット・デメリットを理解した上で判断しましょう。
| 種別 | 教習所に通う | 一発試験を受ける |
|---|---|---|
| メリット | 教習所を卒業すれば技能試験が免除される | 教習所の費用がかからない |
| デメリット | 費用がやや高くなる | 技能試験の難易度が高く難しい |
一発試験について個人的には、小型あるいは普通二輪免許を所有していて普通・大型二輪免許を取得する人が受ける印象が強いです。
教習所に通いながら技能を身につければ、期間中に慣れた一般道路や教習所内コースで卒業検定を受けたほうが確実といえます。
運転免許試験場では、慣れないコースで技能受検を受けるほか合格後には取得時講習や応急救護講習を受ける必要も生じます。
普通自動車免許を取得した筆者体験
筆者は新卒入社した最初の職場を退職した後、半年間にわたる休養期間を利用して普通自動車免許を取得しました。
教習所で自分の聴力でも免許取得が可能なのかを事前に確認した上で教習に臨みましたが、すべてが新しいことばかりで新鮮でした。
仮免許試験(仮免)を1回落としていますが、技能教習では自分の弱点も知ることができ卒業検定(修了検定)では一発合格できています。
運転免許試験場では聴力にかかわる適性検査に少し引っかかったものの、教習所での技能試験をクリアしている事実と検査員の寛容さに救われ、無事に学科試験も合格し免許証を受け取れました。
教習所の教官さんたちには本当にお世話になり、感謝しています。
しかし今振り返ってみると、実際に車を運転して遠出したり転職のために免許を取得したりすることが目的ではありませんでした。
自分の聴力が社会的にどこまで通じるのか試したかったというのが大きいです。
また特殊な身体障害者手帳とは別に、何らかの手続きで必要となる顔写真付きの身分証明書を取得しておきたかったというのもあります。
ただはっきりいえることは、難聴が進行したり聴力が低下したりすると運転免許を取得する機会が減ってしまう可能性があることは確かです。
筆者が運転免許を取得した当時はすでに高度難聴でしたが、聴力の低下がもっと進んでいる時だったら取得できなかったかもしれません。
もし運転免許の取得を検討している難聴の人や聴覚障害者は、できるだけ早い段階で教習所に通うことをおすすめします。
筆者は近い将来、普通自動車免許を返却するつもりです。
もし二輪車免許を取得する場合には普通自動車免許を所有していることで学科試験が免除されるため、しっかり検討したいと考えています。
障害があっても取得できる運転免許・まとめ
2012年の道路交通法施行規則改正によって、難聴や聴覚障害のある人でも普通自動車のほか小型・普通・大型二輪車の免許を取得することが可能です。
2012年以降も段階的に法改正が行われており、2016年にはタクシーやバスなどの運転に必要な第二種免許も、補聴器を使用して基準を満たせば取得できるようになっています。
もちろん他の障害をもつ人も適性検査で問題がなければ、運転免許の取得が可能です。
どんなに障害があっても、自動車や二輪車の運転ができることで自分の可能性を見出せることは嬉しいことです。
また公共交通機関を利用したり友人や家族に送迎をお願いしたりする必要もなく、自らが運転して移動できることは行動範囲が広がることを意味します。
自分の車で好きな時に好きな場所へ、徒歩でも行けなかった場所へも出向いてドライブを楽しみましょう。
コメント